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2007年10月 9日 (火)

卒業生からのメッセージ 狩野志歩

過去と未来の間に

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私のフィルモグラフィで一番古い作品は、研究所在籍時に制作した「情景」(1998年)という作品である。はじめて8ミリフィルムというメディアに接して、フィルムの1コマ1コマに時間の軌跡が描かれることに純粋な驚きを持った。手で触れることのできるフィルムに、シャッターを押すという行為以外にもう少し深く介入したかったのだろう。多重露光と自家現像という手法でもって、意識されない時間の存在をあぶり出そうとしたのである。ここで試みた問題はその後の作品制作の立脚点であり、又、この作品は私に海外への扉を開いてくれた。

当時、イメージフォーラムには国際映画祭情報提供というサービスがあり、年間契約をすると世界中の映画祭の公募情報を送ってもらえるというものだった。(※2000年まで実施)たくさんの応募要項から作品に適した映画祭に片っ端から送る、という作業を繰り返した。海外で上映することよりも、作品を上映する場を見つける為に、日本よりも世界を標的にした方が確率として高いのではないか、という単純な理由からだった。幸いにして「情景」がヨーロピアン・メディアアート・フェスティバル(ドイツ・99年)に招待されたことを契機に、その後の作品もいくつかの国際映画祭で上映され、肯定・否定も含めた様々な反応を知ることができた。そして、各国での上映は多くの映像作家や批評家、プログラムディレクターとの出会いをもたらしてくれた。それら小さな邂逅のひとつひとつが道となって、気がつけば私自身も日本を飛び出していた。
研究所で見た膨大な量の映像作品は大半が欧米の実験映画で、特に映画創始者の一人リュミエールをはじめ、マルセル・デュシャンやマン・レイらによるフランス・アヴァンギャルド映画など、彼等が果敢に取り組んだ時間と空間への大胆な挑戦からは多くの刺激を受けた。 今年からフランスに滞在する機会を得て、日本の作品をパリで紹介できないだろうかと考えた。それは、自作も含めて日本の実験映画がパリでどのように受容されるかという興味と、映像作家として自分がいま立っている場所を改めて確認したいということもあった。研究所の恩師である中島崇さんにこの話をすると、中島さんは快く作品選定を引き受けて下さった。「日本の実験映画ー60、70年代と現在の間に」と題されたプログラムは、タイトルも示すように60、70年代のいわば実験映画の黄金時代と00年代の映像作品を併置したものである。それぞれ異なる時代背景にも関わらず、そこに通底するのは時間への探求である。強いていえば、60、70年代の作品は時代性を色濃く反映した上での時間であるのに対し、現代のものはよりストイックに時間というものを捉えている。
パリのコレクティフ・ジューン・シネマ(CJC)の定期上映会でこのプログラムを上映することになった。CJCは設立者のマルセル・マゼとジョナス・メカスとの出会いがきっかけとなって70年代に組織された映画配給組織で、週に一度の定期上映会では欧米の実験映画やドキュメンタリー作品などを取り上げている。時にはアジアの作品も上映しているが、日本の特集は初めてということだ。
上映はカルチェ・ラタンの一角にある小さな映画館で行われ、木曜の夜にも関わらず沢山の人が来てくれた。一回の休憩を挟んで上映が終わったのは深夜だったが、一部の観客はそのまま残って質疑応答が始まった。それは技術的な質問から感想まで実に熱心なもので、時には観客同士で議論が始まることもあった。日本の実験映画を良く理解している研究者から、こういった作品には初めて触れるという人まで、それぞれの立場で感想なり意見を述べるところに、観客が積極的に作品に関わろうとする姿勢を感じた。 作品を世に出すことに国内と海外のどちらが良いとはいえないが、私の場合は日本から離れて異なる文化の人々と接することで、実験映画やその歴史認識について改めて考えることができたし、その中で自分の作品がどうあるべきか、今後の展開も含めて見つめ直す良い機会であった。これまで制作した作品に導かれるようにして今、パリにいるが、これから何処へ向かうかは過去と未来の作品が指し示してくれるだろう。 研究所では入所前に何か作品を作らねばならなかった。私にとっての映画前史である作品は、これまで撮りためていた写真フィルムの、一番最後のカットばかりを集めた写真集だった。フィルムの最終コマは外部から射し込んだ光で不完全な像になっている。私はそこに<静止し続ける時間>を感じた。「幕間」というタイトルであった。

※写真:「日本の実験映画ー60、70年代と現在の間に」チラシ画像
「日本の実験映画ー60、70年代と現在の間に」
■プログラム1
[切断] 奥山順市  15min/1969/16mm(ビデオ版)
[10月13日の殺人] 林静一 8min/1971/16mm
[セスナ] 中島崇 19min/1974/S-8 (ビデオ版)
[スイッチバック] かわなかのぶひろ 9min/1976/16mm
[花] 松山由維子 5.5min/2004/16mm
[スクリプティング・ゴースト] 倉重哲二 12min/2004/Video
[夢10夜] 田名網敬一、相原信洋 8min/2004/16mm
■プログラム2
[へそと原爆] 細江英公 12min/1974/16mm
[つぶれかかった右眼のために] 松本俊夫 13min/1968/(ビデオ版)
[椅子とスクリーン] 石田尚志 8min/2002/Video
[純情スケコマshe] 玉野真一 15min/2002/S-8(ビデオ版)
[薇] 小瀬村真美 9min/2003/Video
[Lily in the Glass] 狩野志歩 6mm/2003/16mm
[wind tone] 水野勝規 8min/2004/Video
[TEXTISM] 平林勇 11min/2004/Video

狩野志歩
イメージフォーラム映像研究所第21期、22期卒業。 メディアシティ・フェスティバル(カナダ・00年)グランプリ、イメージズ・フェスティバル(カナダ・01年)ベスト・インターナショナル・フィルム・アワードなど受賞の他、山形国際ドキュメンタリー映画祭(01年)、オーバーハウゼン国際短編映画祭(ドイツ・01年)、ロッテルダム国際映画祭(オランダ・01〜03、05年)など国内外で上映多数。 武蔵野美術大学パリ賞及び文化庁新進芸術家海外留学制度にて2005年春より1年間パリに滞在。

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